プリテンダー
杏さんじゃなくたって、偽物の婚約者との間に子供を作ろうなんて思わない。

子供ができたらほとんどの場合は、その相手と結婚する事になる。

お祖父様は最初から自分が決めた以外の男との結婚なんて、許す気はなかったんだ。

「それで…杏さんはどうするつもりなんですか。」

「そうだな…。さすがに鴫野にこれ以上の物を背負わせるわけにはいかない…。少し考えさせてくれ。」

杏さんはゆっくりと立ち上がって、自分の部屋へ戻った。


考えるって言ったって…。

杏さんが僕とホントに結婚なんてするわけないし、結局はお祖父様が選んだ婚約者のイチキの御曹司と結婚する事になるんだろう。

でもそれで杏さんは幸せになれるのかな?

できれば杏さんが幸せになれる選択肢が見つかればいいんだけど。

もし僕がイチキコーポレーションに負けないくらいの大企業の御曹司なら…。

なんて、有り得ない事を考えても仕方がない。

だけどもし僕が御曹司だったら、料理なんかしてないんだろうな。

料理のできない僕なんか、杏さんに必要とされるところがひとつもないじゃないか。

仕方なく始まったはずの杏さんとの生活に終わりが近付いて来るのを感じて、なぜか僕の胸はギュッと握り潰されるような痛みを感じた。


この胸の痛みはなんだろう?




< 128 / 232 >

この作品をシェア

pagetop