プリテンダー
昼休みの憂鬱


火曜日の昼休み。

いつものように杏さんと試作室で弁当を食べようとしていると、なんの前触れもなくドアが開いた。

あ…渡部さんだ。

試作室に来るなんて、何か急ぎの連絡でもあったかな?

そういえば昨日、広報から確認したい事があると言って、杏さんと何やら会議室で話し込んでいたみたいだし。

「失礼します。」

渡部さんは笑みを浮かべて杏さんに軽く会釈した。

杏さんはほんの少し眉をひそめた。

「鴫野くん、ちょっといい?」

あ、僕に個人的な用なのか。

この間、渡部さんとのあんなところを杏さんに見られたので、かなり気まずい。

「えっと…。」

どうしようかな。

僕が少し戸惑っていると、杏さんの携帯電話の着信音が鳴った。

杏さんは電話に出て少し話した後、携帯電話をポケットにしまいながら立ち上がった。

「これから遠山物産に行く事になった。」

「お昼は?」

「すぐに出るから食べている時間がない。悪いな。」

「そうですか…。」


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