プリテンダー
杏さんの弁当、どうしようか。

食べて欲しかったんだけどな…。

ピーマンの肉詰め、朝から張り切って作ったのに。

「私の分を無駄にするのはもったいないから、彼女に食べてもらったらどうだ?」

杏さんは黙って渡部さんの横を通り過ぎ、試作室を出ていった。

渡部さんは杏さんの後ろ姿を不思議そうに見送って、僕の方に歩いてくる。

「鴫野くん、お昼はいつも芦原部長と?」

「ああ…うん、最近ね。」

「芦原部長のお弁当も毎日鴫野くんが作ってるの?」

説明するのめんどくさいな。

変な誤解されても困るんだけど。

「あの人、ほっとくと食事しないんだ。この間それで倒れそうになったから、なんかほっとけなくて。」

渡部さんは近くにあった椅子を寄せて、僕のすぐとなりに座った。

「ふーん…いいなあ、毎日鴫野くんにお弁当作ってもらって一緒に食べられるなんて。」

「そんなたいしたもんじゃないよ。」

近すぎやしないか…?

いつ誰が入って来るとも知れないのに、まさかここで迫ったりしないよな?


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