プリテンダー
「鴫野くん…。」

ただでさえ近いのに、渡部さんは更に椅子を近付けて僕に体をすり寄せた。

非常にまずい状況だ。

「今日はキスしてくれないの?」

「え?」

いや、だからここじゃまずいんだって。

っていうか、僕は渡部さんと付き合おうとか思ってないわけで、もうあんなおかしな事はしたくないんだけど。

「…やっぱり会社ではまずいだろ。」

「だったら…会社以外の場所で私と会ってくれる?」

しまった…墓穴掘ったかも。

どこで誰に見張られているかも知れないのに、それは無理だ。

「それもちょっと…。」

他言無用だと杏さんに言われているので、理由も説明できない。

まどろっこしいな。

「ダメ…?そんなに私の事が迷惑…?」

あ、またその顔しちゃうんだ。

渡部さんは目をウルウルさせながら僕を上目遣いに見ている。

なんかもう、下手な言い訳考えるのもめんどくさくなってきた。

渡部さん本人が望んでるんだ。

これ以上無駄な詮索されるのも避けたいし、この辺で黙らせとくか。



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