プリテンダー
それにしても喉が渇いたな。

時計を見ると、約束の時間から既に20分以上過ぎている。

時間に厳しい杏さんにしては珍しい。

もしかして、7時半にここで待ち合わせと言うのは嘘だったとか?

いや…バカ正直で真面目な杏さんに、そんな事ができるとは思えない。

でももしかしたら、酔った勢いでひどい事をした僕に対するちょっとした意地悪だったのかも…。

なんて、考えなくもない。


ホテルプリマヴェーラと言えば、泣く子も黙る超一流ホテルだ。

しがない若いサラリーマンの僕が気軽に出入りできるような場所ではない。

長い時間ソファーに座っている僕を、さっきからホテルマンや客たちが、チラチラと訝しげに見ている。

どうしたものか。

ここで帰ってしまうと、反省しているならと言った杏さんの言葉でここに来た僕の意にそぐわない。

こうなったら、摘まみ出されるのを覚悟の上で杏さんを待つしかない。


いつになったら杏さんは現れるんだろう?




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