プリテンダー
時計の針が8時を指した頃、ようやく杏さんが僕の前に現れた。

しかし杏さんは、見た事もないようなエレガントなドレスを身に纏っている。

えーっと…。

なんだこれ?

杏さんてばお姫様みたいなカッコしちゃって。

仮装大会か何かですか?

紳士服の店で買った安いスーツ姿で仕事帰りに足を運んだ僕とは、どう見ても世界が違う。

そんな事はお構いなしで、杏さんは僕の腕を掴んだ。

「とにかく!そのお話はお断りします!私は彼と結婚します!!」

………え?

結婚って…なんの事だ?

まさか、金曜の夜の責任を取れって事なのか?

突然降って湧いた結婚話にパニックを起こしそうになる僕に、杏さんは振り返って、話を合わせろと小声で凄んだ。

話を合わせろと急に言われても…。

「会社の事はイヅルに一任すると言ったはずです。私は今の会社に勤めて、彼と結婚して家庭を築きますから!お祖父様にはご迷惑をお掛けしません!!」


…なんのこっちゃ。


状況はよくわからないけど、杏さんは僕と結婚するらしい。




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