リナリア
* * *

 11時までは自由時間が用意されていた。今日の知春は一日オフだ。人生最後の文化祭が始まろうとしている。

「椋花とたくはどこ回るか決めてる?」
「ん-10時半までには腹ごしらえしときてーくらいにしか考えてない。」
「椋花は?」
「食べ物については拓実とほぼ同じで、あとは…。」
「うん。」

 椋花は真っすぐに知春を見つめて、口を開いた。

「写真部の展示を見たいなと思って。七海ちゃんに勧められちゃったから。」
「七海ちゃんって、名桜ちゃんの友達だったよな?いつの間にそんな仲良くなったんだよー?」
「拓実には内緒。」
「あっそ!」
「俺も行きたいと思ってたんだ、写真部の展示。一緒に行こう。」
「うん。」
「じゃー俺は他のやつと…。」

 ここで自分が一緒に行くと言わなければ、椋花と知春は二人になれる。そう思って拓実は口を開いたのに、制服の袖の裾が引っ張られて、そこで言葉が切れてしまった。

「ん?」
「拓実も行くよ。あの子にお世話になったじゃん。」
「え?」
「たくも一緒に行こうよ。」

 拓実は、自分の裾を引いているのが椋花であることを確認した。一体どういうつもりなのだろう。

「拓実ー聞いてる?」
「あーはいはい、行くって。」

 椋花が何を考えているかわからない。せっかくのチャンスを自ら捨てに行くなんて。
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