リナリア
手を伸ばしてしまった
* * *
撮影が開始されてからあっという間に2週間が経った。撮影は知春が懸念していたようなことは一切起こらず、思っていた以上に穏やかに進行していた。表情が上手く作れないことも、挙動がおかしくなることも、自身の恋愛経験のなさが露呈することもなかった。彩羽が比較的ひとつひとつの動きや視線、距離感などを確認するタイプだったことも幸いした。どちらかといえば、知春は彩羽の性質に乗っかった形に近かった。彩羽が確認するから、知春も確認できた。だからこそ進行はスムーズだったと言える。
そして、思っていた以上に名桜が現場にいたことも、純粋にありがたかった。不思議なことだが、撮影現場に名桜がいるだけで少し心が和んだ。別段緊張していたわけでもないと思って挑んだ撮影だったが、その実そうでもなかったのだということを思い知った。
「カット。」
彩羽の一人のシーンの撮影を、邪魔にならない位置から眺めつつ、この2週間をぼんやりと振り返っていた。2週間といっても2週間ずっと撮影だったわけではない。彩羽が大学に通っているということや、知春も高校生であるということを考慮し、スケジュールが組まれた関係で金曜の午後から、土曜、日曜終日で撮影している。実質今日は6日目だった。
(…普段あんなにテンションが高い人とは思えないんだよなぁ…、あの表情。)
明るく元気で、裏表のない性格。それなのにひとたび撮影が始まれば、それこそ一度目を閉じて次に開くときには、別の人になっている。それが『兼坂彩羽』という人だった。
「なっちゃん!今の見ててくれたー?」
「はいっ!オフショット撮ってもいいですか?」
「いいよー!」
この通り、彩羽と名桜は急激に仲良くなっていた。それこそ、知春の入る隙間のないくらいには一緒にいる。オフショットを撮られたあとの彩羽と目が合った。すると、彩羽はブンブンと大きく知春に手を振る。
「ちーちゃんも見ててくれたー?」
「彩羽さんのシーン、いつも見てますよ。勉強のために。」
「今日も良かった?」
「はい。本当に別人ですよね、いつも。」
「それって褒めてるー?」
「褒めてますよ。『どんな人物にでもなれる』って、骨の髄まで役者ですよ。」
名桜の目が知春と彩羽を行ったり来たりする。そんなあどけない表情が可愛くて、知春の頬が緩んだ。
撮影が開始されてからあっという間に2週間が経った。撮影は知春が懸念していたようなことは一切起こらず、思っていた以上に穏やかに進行していた。表情が上手く作れないことも、挙動がおかしくなることも、自身の恋愛経験のなさが露呈することもなかった。彩羽が比較的ひとつひとつの動きや視線、距離感などを確認するタイプだったことも幸いした。どちらかといえば、知春は彩羽の性質に乗っかった形に近かった。彩羽が確認するから、知春も確認できた。だからこそ進行はスムーズだったと言える。
そして、思っていた以上に名桜が現場にいたことも、純粋にありがたかった。不思議なことだが、撮影現場に名桜がいるだけで少し心が和んだ。別段緊張していたわけでもないと思って挑んだ撮影だったが、その実そうでもなかったのだということを思い知った。
「カット。」
彩羽の一人のシーンの撮影を、邪魔にならない位置から眺めつつ、この2週間をぼんやりと振り返っていた。2週間といっても2週間ずっと撮影だったわけではない。彩羽が大学に通っているということや、知春も高校生であるということを考慮し、スケジュールが組まれた関係で金曜の午後から、土曜、日曜終日で撮影している。実質今日は6日目だった。
(…普段あんなにテンションが高い人とは思えないんだよなぁ…、あの表情。)
明るく元気で、裏表のない性格。それなのにひとたび撮影が始まれば、それこそ一度目を閉じて次に開くときには、別の人になっている。それが『兼坂彩羽』という人だった。
「なっちゃん!今の見ててくれたー?」
「はいっ!オフショット撮ってもいいですか?」
「いいよー!」
この通り、彩羽と名桜は急激に仲良くなっていた。それこそ、知春の入る隙間のないくらいには一緒にいる。オフショットを撮られたあとの彩羽と目が合った。すると、彩羽はブンブンと大きく知春に手を振る。
「ちーちゃんも見ててくれたー?」
「彩羽さんのシーン、いつも見てますよ。勉強のために。」
「今日も良かった?」
「はい。本当に別人ですよね、いつも。」
「それって褒めてるー?」
「褒めてますよ。『どんな人物にでもなれる』って、骨の髄まで役者ですよ。」
名桜の目が知春と彩羽を行ったり来たりする。そんなあどけない表情が可愛くて、知春の頬が緩んだ。