リナリア
* * *
卒業式は粛々と滞りなく終わった。時折涙をすする音が聞こえたが、涙は知春にとってコントロールするもので、ここ最近は自分のコントロール外で泣いたことなどないな、と他人が泣く姿を見て思う。本来涙はきっと、こうして意図せず流れてしまうものだろうし、それをコントロールしている自分の方が普通ではないのは明らかで、式中には少しだけ苦笑が漏れた。
教室に戻り、担任の話を聞き、もう本当に高校生活の最後が終わる。それを寂しいとはあまり思わなかった。今日やるべきことがあるからでもあるし、繋がりが立ち消えてしまうとも今は思わないからかもしれない。
全てが終わり、それぞれが写真を撮ったり担任のところに行ったりしている中で、知春は拓実と椋花に声を掛けた。
「あのさ、二人ともちょっとだけいい?」
「いいけど、どうしたの?」
「屋上で、写真を撮りたくて。鍵ならあります。」
「なんでお前が持ってんだよ。」
「下校時間はずらさなきゃならなくて、屋上待機なの俺。ちょっとだけ付き合って。名桜に3人の写真、撮ってもらいたくて依頼済みなので。」
「…準備がいいね、知春。」
「うん。で、写真撮り終ったら少しの時間、たくと椋花に屋上を譲る。俺は名桜とどっか行くから、思う存分話して。」
知春がそう言うと、椋花の顔が赤く染まり、そしてキッとした目で拓実を睨んだ。
「拓実!あんたもしかして…!」
「知春に隠し事するような仲じゃねーじゃん、俺ら。ってかありがと、知春。助かるわー。正直このまま逃げられるな、どうやって捕まえるかなーって思ってたところ。」
「役に立てて嬉しい。」
「そこがグルなのずるい!」
「はいはい椋花。俺は今日ばかりはたくの味方だ~。」
いつもは拓実と椋花、どちらに対しても平等に味方だった。でも今日は椋花には申し訳ないけれど、拓実の味方をしたい。付き合うという答えを出してほしいと言いたいわけではない。ただ、気持ちに向き合ってほしい。気持ちを伝える側に立つ人間として、自分にとって都合のいい答えが返ってきたらそれは嬉しいけれど、それ以前にこっちを見て、話を聞いてほしいのだ。そして、向き合ってほしい。それがたとえ、どんな答えであったとしても。
屋上のドアを開けると、強い風が吹いた。3月はまだ肌寒い。そこには先客がいた。知春が会いたいと望む、その人が。
卒業式は粛々と滞りなく終わった。時折涙をすする音が聞こえたが、涙は知春にとってコントロールするもので、ここ最近は自分のコントロール外で泣いたことなどないな、と他人が泣く姿を見て思う。本来涙はきっと、こうして意図せず流れてしまうものだろうし、それをコントロールしている自分の方が普通ではないのは明らかで、式中には少しだけ苦笑が漏れた。
教室に戻り、担任の話を聞き、もう本当に高校生活の最後が終わる。それを寂しいとはあまり思わなかった。今日やるべきことがあるからでもあるし、繋がりが立ち消えてしまうとも今は思わないからかもしれない。
全てが終わり、それぞれが写真を撮ったり担任のところに行ったりしている中で、知春は拓実と椋花に声を掛けた。
「あのさ、二人ともちょっとだけいい?」
「いいけど、どうしたの?」
「屋上で、写真を撮りたくて。鍵ならあります。」
「なんでお前が持ってんだよ。」
「下校時間はずらさなきゃならなくて、屋上待機なの俺。ちょっとだけ付き合って。名桜に3人の写真、撮ってもらいたくて依頼済みなので。」
「…準備がいいね、知春。」
「うん。で、写真撮り終ったら少しの時間、たくと椋花に屋上を譲る。俺は名桜とどっか行くから、思う存分話して。」
知春がそう言うと、椋花の顔が赤く染まり、そしてキッとした目で拓実を睨んだ。
「拓実!あんたもしかして…!」
「知春に隠し事するような仲じゃねーじゃん、俺ら。ってかありがと、知春。助かるわー。正直このまま逃げられるな、どうやって捕まえるかなーって思ってたところ。」
「役に立てて嬉しい。」
「そこがグルなのずるい!」
「はいはい椋花。俺は今日ばかりはたくの味方だ~。」
いつもは拓実と椋花、どちらに対しても平等に味方だった。でも今日は椋花には申し訳ないけれど、拓実の味方をしたい。付き合うという答えを出してほしいと言いたいわけではない。ただ、気持ちに向き合ってほしい。気持ちを伝える側に立つ人間として、自分にとって都合のいい答えが返ってきたらそれは嬉しいけれど、それ以前にこっちを見て、話を聞いてほしいのだ。そして、向き合ってほしい。それがたとえ、どんな答えであったとしても。
屋上のドアを開けると、強い風が吹いた。3月はまだ肌寒い。そこには先客がいた。知春が会いたいと望む、その人が。