Four you ~2+2=4=2×2~
無視されることなんて、杏樹には慣れっこだった。嫌われることも、杏樹は日常茶飯事のように感じてしまっていた。

…だけど、裏切りという行為だけは、無視や嫌悪と似通っていながらも、大きく違っていた。

杏樹の目を守ってくれていた眼鏡は、割れたレンズの破片とゆがんだ金属の棒に変貌していた。

「…死なれると面倒だからな。今日はこの辺にしといてやるよ。…明日も待ってるからな」
「何してるの、剣斗~? 帰るよ~?」
「おう。…じゃあな」

去ろうとする剣斗のズボンの裾を、杏樹は力等微塵も残っていない手で掴んだ。

「…何だよ?」

剣斗の足が後ろに振られ、杏樹の顎を打つ。だがそれでも、杏樹は手を離すことはなかった。

「何やってんのよ、剣斗?」
「コイツ、俺の足を掴んでやがる。どうにも振りほどけそうになくてな…」
「剣斗、アンタ本当に男? 指折ってもいいから、早く離れなよ」

剣斗は美月に言われるがまま、右足首を杏樹の手ごと掴んだ。そして、指を一本一本、はぎ取るようにズボンの裾から離した。

「…」

全身を小刻みに震わせながらうつむく杏樹を尻目に、剣斗は美月の方に歩き出した。

…そして杏樹は、自分の意識がもうろうとするのを感じた。視界がかすみ、音が遠ざかっていく。

初めて経験することだったけれど、これが死であるということくらいは、半ば本能的に気づいた。

「…!」
「…!」

目の前では、剣斗と杏樹が言い争っていた。よく聞こえなかったが、やはり杏樹に嫌がらせをするのは間違っているだろう、と言っていて欲しい。杏樹はそんな願いを込めながら、最後の呼吸を済ませ、あらゆる感覚を遮断した。
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