押しかけ社員になります!
「このまま帰らないぞ」
「え?」
どこかに宿泊?…ホ、ホテル?まさかの…、ラ、ラ、ラブホですか?
「ん?フ。ご飯、食べて帰ろう」
あ、…そういう事ですか。はぁ、変な緊張が走ったじゃないですか。
「はい」
「ん?何か…、良からぬ事でも想像したか?」
運転席から手が伸びて来て、頬に触れた。…、あ。
「い、いいえ。と、とんでも無い」
もう…、探らないでください。動揺が増します。手を握られた。
「フ。お洒落にホテルもいいかと思ったが、都合の悪いこともある。だから、俺の部屋でいいよな?
あー、まあ、ゴチャゴチャ言うことでも無いか」
「はい。私も…部長の部屋がいいです」
何必死に返事してるの…。でも、だって…初めては部長の部屋がいい。何もかも部長のモノがいい。素直な気持ちだ。
…。
「…そうか」
部長も少しは緊張したりするのかな…。だとしても、私ほどじゃないよね。はぁぁ。
「ここだ。どうだ?『お洒落なレストラン』にしてみたぞ?」
「はい」
「あ?…それだけか?」
あ、だって…段々緊張して来て、言葉が継げないんですから。…察してください。
ご飯だって喉を通るかどうか…。時間が経てば経つ程、近付くのよ。この後の事が。
「…大丈夫だ。建物はどこだってお洒落な造りのものだろ?ここは気さくな店だ。
さあ、入るぞ。気を遣わずに食べられるから心配するな」
「…はい」
ディナーコースは面白い選択だ。和食、中華、イタリアンから選べると言う。予約は入れてあったようだ。
部長が入店するとフロアマネージャーのような人が現れた。
「青柳様、お待ちしておりました。…さあ、どうぞ。奥の御席にご案内致します」
ウェイターの一人に合図をした。
「申し訳ない、急にお願いして、しかも少し遅れてしまった」
「とんでもない。いつも御贔屓にして頂いて、有り難く思っております。少々の遅れなど何の問題もございません。さあ、お時間は気になさらずに、どうぞごゆっくり…」
「有難う。すまないね」
部長は私の手を引くと案内のウエイターさんの後に続いた。私は慌てて振り向き、今更ながら、こんばんはと挨拶をした。
マネージャーさんはニコニコしていた。
「仲のお宜しいようで。…良かったですね、青柳様」