押しかけ社員になります!

「お父さんは男親だから、娘には特別思いは深いのよ。解ってあげてね」

「うん」

お父さん…。

「あ、しんみりしなくていいから。いつも通りがいいのよ」

それでもお父さんはしんみりするんだから。

「解った」

「あれから、また、青柳さんいらしてくれたのよ」

「え?いつ?」

「先週の日曜よ。お父さんと話をして帰ったわ」

…知らなかった。

「男同士の…心理戦かしらね。お父さんも青柳さんの気持ちは充分理解しているのよ。これはね、親として、しておきたい事だと思うのよ。悪あがきよ。和夏が大事で可愛いから。
だから大丈夫よ。
青柳さんも解っていると思うのよ。それでも、何度でも来てくれると思うわ。大丈夫よ、和夏。反対され続けたからって、それが理由で嫌になったりするような人じゃない。そうでしょ?」

部長の人となりは解っているつもり。だけど…。

「大丈夫よ。青柳さんの言葉を信じなさい。そもそも、こんな事でくじけるようでは、和夏は渡せないわよ」

「お母さん?」

「覚悟は今だけでは駄目なのよ。ずっと一緒に居たいでしょ?だから、青柳さん、頑張っているのよ」

「お父さんも、お母さんのお父さん…おじいちゃんに何度も会いに来たの?」

「ああ、それはね。フフフ。ずっと門前払いよ」

「えー。…ずっと?…おじいちゃん、恐〜」

「そうね…。恐いとはちょっと違うわね。恋愛結婚だったから…最初は玄関先で、帰れって。お父さんの挨拶ですら聞いてくれなかった。何度も来て、やっと話をして。そして次は家に入れて貰えて…」

…お父さん粘って、諦めずに頑張ったんだ、ずっと。お母さん、愛されてる…。
じゃあ、お父さんは話を聞いてくれたから、まだ厳しい方じゃ無いって事だ。
おじいちゃん、凄い根性だな…お父さんと根競べ。それ程お母さんの事が大事で幸せになって欲しかったんだね。

「他所様の娘さんをもらうのは簡単じゃ無いって、相手の人に解って欲しいのよ。生まれて今日まで…色々あって、一緒に暮らして来たんだもの。
親にとっては大事な娘。はい、いいですよ、とは簡単に言いたく無いのよ。こんなお母さんでも、勿体付けられたのよ?」

「お母さん…」

「男親の気持ちよ。…寂しいから…足掻くのよ。
さあ、…出来た。食べよう。
お父さ~ん、できましたよ~、ご飯食べましょう」

「おう」
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