押しかけ社員になります!
はぁ、…。
「西野…」
部長は腕を解くと後ろに向き直した。肩を掴まれた。
「…部長」
「取り敢えず、あっちに座ろうか」
そう言うと腰に手を回し、リビングに行くように促された。
「さあ、ここに…」
ソファーに座らされると、ハーフケットを膝に掛けてくれた。
珈琲メーカーから二人分入れ、カップを持って来た。
「ここに置くよ?」
「はい…」
何か話がある事は間違いない。
「…西野、俺はな、バツイチ、つまり離婚経験者なんだ。だから、俺に関わるなと言ったんだ」
「…解りません。何故ですか?バツイチだと、離婚していると、何故関わってはいけないのですか?」
「それは、結婚に失敗しているからだ。…そんな男だからだよ」
そんなの…言葉を変えただけの、堂々巡りに過ぎない。…理由。
当たり前だけど、婚姻関係を継続出来ない理由があったから、別れる事になったんだ。
それに触れられたくないからとか…。話したくないから…、人を寄せつけないのだろうか。
だから、恋愛の入り口で門前払いしようとするのですか?
だからと言って、はい、そうですか、と引き下がるつもりはない。
こんな私に、バツイチだという事を教えてくれたんだ。理由は教えてくれなくても、それだけで進歩じゃない?
言えない理由があっても、少なくとも何かしら、部長の感情が動いたという事よね?
だったら、関わるなと言われて、諦めて引く方が馬鹿だと思う。
ここまで部長を悩ませてしまったのだから。私は私なりに思い続けたい。
「私、まだまだレポートの提出が足りてませんね。部長にどんなに却下されようとも、提出し続けますから」
諦めない。
もう口で思いっきり好きだと思いも告げてしまった。
「…西野」
そんな、諦めろって顔で見ないでください。私のラブレターのようなモノなのです。
せめて目を通して貰うくらいはして欲しい。どれも好きという思いの詰まったレポートなんです。原点回帰よ。
また元通り、始めたらいいんだ。
「部長、取り敢えずシャワーお借りします」