その背中、抱きしめて 【上】
----いつもの昼休み。
とは違って、何だかクラス全体が…いや学年?学校?全体がちょっと浮足立った感じの昼休み。
(1か月ぶりだね、この感じ)
そう、今日はホワイトデー。
あっちこっちからキャーキャー聞こえる。
「ゆずは今日の帰りかね、高遠くんからのお返し」
「…今日がホワイトデーってわかってるかなぁ」
男子ってそういうの疎い気がする。
ホワイトデーは女子ばっかりがキャーキャー言っちゃうイベントの1つ。
「高遠くんに限って忘れてるとかないでしょ。あの子かなり気が利くじゃん」
「そうかなぁ…」
机に片肘をついてちょっと口を尖らせる。
「何ふてくされてんですか」
「ぅわあっ!!」
急に廊下の窓越しに現れた人影と声にびっくりして、とんでもない声が出た。
「た、高遠くんっ」
「びっくりしすぎでしょ」
高遠くんが苦笑する。
さくらちゃんがケラケラ笑う。
そして、クラスの女子たちがザワザワする。
高遠くんが人をあまり寄せ付けないオーラを出してるから、表立ってアプローチする女子はいない(と思う)けど、なにげに高遠くん2年女子からも人気あるんだよね。
「どうしたの?」
わざわざ2年の階まで来て、また部活の連絡かな。
「これ」
そう言って高遠くんが少し腕を上げると、頭のてっぺんに何かの角っぽいものがコツっと当たった。
高遠くんの腕が下がって、私の前に親指と人差し指で挟んだ箱が差し出される。
「これ?」
「バレンタインのお返しです」
高遠くんがそう言ったあと、一瞬の静寂を破るかのようにクラスがざわめいた。
「あ、ありがと」
「どういたしまして」
「開けてもいい?」
「大したもんじゃないから今はだめです」
えぇ???
普通、ここって”いいよ”っていう場面じゃないの?
私が眉間にしわを寄せると、高遠くんが苦笑いする。
「別に開けてもいいけど、そっちの視線に耐えられますか?」
「へ?視線?」
高遠くんが小さく指さした方向…教室の中を見ると、クラスの女子全員がこっちをガン見してる。
「うわっ…」
「じゃ、先輩また部活で」
窓のサッシに両肘をついていた高遠くんは身を起こして、階段に向かって歩いて行った。