その背中、抱きしめて 【上】



「あ、すいません。相川慎一(あいかわ しんいち)です。センターです。翔先輩の憧れのヒトを見たくて藤宮にしました」

背の高い子がニコニコ笑う。

「なんだよ、その不純な動機」

高遠くんがため息をついた。


「だってあの大会の時、うちら1年雑用してたから、女子の決勝見てないんですよ。だから翔先輩の憧れのヒトがどんな人なのか気になるじゃないですか」


相川くんが真面目に答える。

「だから、今日会えて良かったです。明日からよろしくお願いします」

そう言って、私にペコっと頭を下げた。


「セッターの桜井一也(さくらいかずや)です。去年の夏、ベストセッター賞もらいました」

満面の笑顔でピースサイン。

「すごいね!高遠くんから2人とも実力は申し分ないって聞いてるから期待してるよ。…っと、私も自己紹介しなきゃね」

背筋を伸ばして改る。

「男バレマネージャーの佐藤柚香です。部に佐藤ってもう1人いるから、みんな『ゆず』って呼ぶの。3年はインターハイで引退するから一緒にいられるのは何ヶ月もないけど、よろしくね」

「ゆず先輩…でいいんですか?」

セッターの桜井くんがちょっと遠慮がちに聞いてきた。

「うん、いいよ。後輩もみんなそう呼ぶから」

「翔先輩も?」


桜井くんの次の質問に相川くんが鼻で笑う。

「あほかお前。翔先輩は彼氏なんだから名前だろ」

「あ、そっか」


「柚香先輩」

高遠くんが静かに口を開いて、私たち3人が高遠くんの方を見る。


「俺は柚香先輩って呼んでる」


肩ひじをついたまま、高遠くんがふっと笑った。


何だか照れる。

″俺だけ特別″って感じがして。

(でも清水くんも高遠くんと同じ呼び方だけどね)


「じゃあ俺も柚香先輩って呼ぶ!」

桜井くんが挙手して宣誓すると


「お前らはダメ」


って高遠くんがピシャリと言い放った。



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