その背中、抱きしめて 【上】
「翔くんって、ゆず先輩にだけ心を開いてますよね」
ボールを拭いている途中、おもむろに麻衣ちゃんが口を開けた。
「まさか。そんなことないでしょ。必要最低限しか喋らないし」
ほんとに、用事のある時しか話しかけられないオーラを放ってるからね、あの子。
だからテスト前勉強の時は奇跡に近かったよ。
何だ、喋れるんじゃんって思ったくらいだし。
「うちら1年の中でも言ってるんですけど、すっごい近寄りがたいオーラがダダ漏れじゃないですか。話しかけてもそっけないし」
それはわかる。
私だって部活中に話しかけても「あぁ」か「はい」か「いえ」がほとんどだからね。
「けど、ゆず先輩と話してる時の翔くんの顔って、少し表情が柔らかいっていうか…うちらの時と違うんですよ」
「まっさかー。同じだよ、仏頂面してるよー?」
「いやいや、違うんですって。ゆず先輩自覚無しですかー?今度話す時、よく見てみてくださいよー」
よく見るも何も同じだよー。
彼の態度は誰に対しても平等じゃん。