モテ系同期と偽装恋愛!?

「紗姫、風呂に行こうか」

「え……あの、私の話は……」

まずは話を聞いてもらいたいと思っていたのに、真っ先にお風呂の話をされて肩をビクつかせてしまった。

すると彼は苦笑いして、手にしているパンフレットを指先で弾く。

「変な意味じゃないから怯えないで。
大浴場の利用が0時までと書いてあるからさ、先に風呂に入った方が時間を気にせずに話を聞けると思って」

腕時計を見ると今は22時20分で、話は長くなりそうだから、確かに先に入った方がよさそうだ。

ここは元温泉旅館。温泉は枯れてしまっても普通の湯を張った大浴場が一階にある。

部屋に古くて狭いユニットバスもあるが、横山くんの存在を気にしながらそれに入るよりは、大浴場に行きたいし。

恐らく私の気持ちを推測して、先に大浴場にと提案してくれた彼は、やはり優しい人。

信じているつもりなのに、つい怯えてしまったことを反省し、彼の提案に頷いた。

宿の浴衣とタオル、持参のバスセットを手にふたりで一階に降り、赤と紺、色違いの暖簾の前で足を止めた。

「部屋の鍵、俺が持っててい?
多分、俺の方が先に出ると思うから」

急がずゆっくり入れるからその方が嬉しい。

それじゃまた後でと横山くんと別れ、女湯の暖簾を潜ると、ふんわりと湯の香りが脱衣所に漂っていた。

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