モテ系同期と偽装恋愛!?
横山くん……。
持ち上げた左腕をドアに突き、右手はズボンのポケットに。
まだドアノブを掴んでいる私との距離は30センチもなく、そんなに接近されていたことに驚いて、急いでドアから離れて会議用テーブルの方に寄った。
「俺って、相当嫌われてるよな……」
自嘲気味に苦笑いする彼は、ドアをパタンと閉めた。
会議室の中にふたりきりになってしまった……。
途端に心が落ち着きをなくして焦り始めるが、それを決して表に出さず、澄まし顔をキープしていた。
大丈夫、横山くんの存在を気にしなければいいと自分に言い聞かせ、10列ほど整然と並べられた会議用テーブルの間を歩き、前方へ。
ホワイトボードの横にある演説台の上には、ピンクと白のバラの花がガラスの花瓶に入れられ飾られている。
これは私が二週間ほど前に買った花で、花弁が散り落ちたり、先が茶色に変色していたりして、残念ながら交換時期にきていた。
「なにやってんの?」と横山くんが聞く。
ついてきた彼は最前列の会議用テーブルにお尻を半分乗せ、両手を後ろについて私を見ていた。
彼が腰かけているテーブルの、通路を挟んで隣のテーブルに荷物を置いた私は「見れば分かるでしょ」とわざと素っ気ない返事をする。
「新しい花を買ってきたから入れ替えるのか?
なんでお前が? この会議室、ほとんど使われてないし飾っても意味ないだろ」
「私がやりたいからやってるの。
横山係長には関係ないことですので、気にしないで下さい」
花瓶と枯れかけたバラの花を手に、一度会議室を出た。
向かった先はすぐ隣にある4階の給湯室。
二週間ほど目と心を楽しませてくれたバラの花に「綺麗だったよ、ありがとう」と声をかけてからゴミ箱に捨て、水を入れ替えた花瓶だけを手に大会議室に戻ってきた。
横山くんはまだ同じ姿勢で私を待っている。
元カノの復縁要請を断るという彼の用事は済んでいるのだから早く出て行けばいいのに、どうして居座るのか……。