モテ系同期と偽装恋愛!?
危険を察知すると同時に足が勝手に横にずれて、ふたりの距離を広げていた。
そのまま会議用テーブルに寄り、自分の鞄に手をかける。
「紗姫、待って、まだ話が……」
引き止めようとする彼の手が横から私の鞄に向けて伸びてきて、鞄を人質に取られないよう、慌ててその手に茶色の紙袋を押し付けた。
「これ、なに?」
「向かいのパン屋のカツサンド」
「俺に……?」
「勘違いしないでね。ただの昨日のお返しだから。あなたなんかに借りを作りたくないだけよ」
キツイ視線に、可愛らしさの欠片もない言葉。
我ながら高飛車女の模範解答的な態度を取れたと思っていた。
それなのに、横山くんはなぜか満面の笑顔を向けてくる。
「カツサンド、すげー好き!
サンキュー。やっぱ紗姫、俺のこと分かってくれてんだな」
やめてよ……そんな無邪気な顔して喜ばないで……。
いつもの意地悪な笑い方で皮肉を言われる方がまだ困らない。私たちの間にある壁を確認できるから。
でもこんなふうに喜ぶ姿を見せられたら、私も嬉しくなってしまうじゃない。
迷ったけれどお返しをしてよかった……カツサンドを選んでよかったと、思ってしまうじゃない……。
困る気持ちとは逆に、心の中で勝手に小さなつぼみたちがポンポンと花開いていく。
嬉しいけれど喜んで見せては絶対にダメ……不自由な心を抱える私は、笑顔の彼に背を向けて、足早にドアに向かった。
「紗姫、今度さ……」
横山くんがなにかを言いかけていたけれど、それを無視して急いで廊下に出てドアを閉めた。
ドアに背を持たれて、深い溜息を吐き出す。
困るよ、横山くん……。
お願いだから、私に構わないで……。