モテ系同期と偽装恋愛!?
「紗姫……紗姫……紗姫!」
「えっ、な、なに……」
何度も呼びかけていたらしい横山くんの声が、やっと頭の中に届き、怯えながら返事をした。
心配そうな、訝しむような顔をして、彼はほんの少し身を乗り出して私に聞く。
「すげー震えてるぞ、どうした?」
「あ、これは……」
指摘された通り、ごまかせないほどに体がブルブルと震えていた。
冷や汗が背中を伝い、呼吸も速く浅くなっている。
中学校の校舎を見つけてしまったせいで、自分は男性が怖いのだと改めて強く認識してしまった。
それに加えて高校生カップルのキスシーンを目撃してしまい、自分の身にも同じことが起きるのではないかと危ぶんでしまう。
そんな事情により震えるのも無理はないと思うけれど、高飛車女のイメージを崩すわけにいかなかった。
過去のトラウマも話せないし、男性が怖いからだとも言えず、私は咄嗟に嘘をつく。
「高所恐怖症で……」
本当の恐怖の対象は高所ではなく、心配してくれる横山くんなのだが、彼は大きく息を吐き出して、私の嘘を信じてくれたみたい。
「そういうことは、乗る前に言ってよ」と呆れた声がした。
その直後にギシッとゴンドラが軋む音がして、揺れと傾きを感じた。
「キャア!」と思わず叫んでしまったのは、彼が私の横の狭いスペースに無理やり移動してきたせいだ。
精一杯、端に寄っても、どうしても体側がくっついてしまう。
どうして急に隣に……やっぱり横山くんにも下心が……。
焦りと恐怖で益々震えがひどくなり、涙が滲んできてしまう。
怖い、怖いと思っていると、頭からバサリと水色の布が被せられた。
これは、横山くんが着ていたカッターシャツ……。
どうしてと思うと同時に、体が締め付けられた。
横山くんがシャツの上から腕を回し、突然抱きしめてきたのだ。