モテ系同期と偽装恋愛!?

ちょうど乗降口に戻ってきたところだった。

係りの人がドアを開けてくれるとすぐに、私は外へ飛び出す。

足がまだ震えているので、たった3段のステップを踏み外して転んでしまう。

真っ青な顔で慌てふためく私に、並んでいる数人の人たちの訝しげな視線が突き刺さる。

注目を浴びる恥ずかしさと、横山くんから少しでも遠くに逃げたい気持から、急いで立ち上がり駆け出した。

遊園地の出口に向けて走る私。

後ろに足音が迫ってきて、すぐに腕を掴まれ止められてしまった。

「紗姫っ!」

「や、やだっ、離して!」

掴まれている手を全力で振り払い、その反動で後ろに二、三歩、よろけるように後ずさる。

恐怖の波はまだ引いてくれず、気持ちも鼓動もしばらく落ち着きそうになかった。

私が高所恐怖症だなんて言い訳したから、彼は私を抱きしめてきた。

横山くんは悪くない。
こんな私を気遣ってくれる優しい人だということが、デートをして何となく分かっていた。

見た目のカッコよさだけではなく、内面も女子社員を惹きつける理由なのだろう。

それでも今、私は彼に恐怖を感じてしまう。

色んな感覚がある中で、痛覚が優先されると以前どこかで聞いた覚えがある。それは痛覚が命を守るのに最も重要な感覚だから。

きっと恐怖もそれと同じで、色んな感情の中で優先されてしまうのだろう。

だから横山くんがどんな優しくしてくれても笑わせてくれても、一度怖いと思ったら、それまでの楽しさが簡単に恐怖に上書きされてしまうのだ。

< 83 / 265 >

この作品をシェア

pagetop