モテ系同期と偽装恋愛!?

ノートパソコンを立ち上げて、始業の準備に入りながら、どうしても気にしてしまうのは机7つほど離れた斜め前方の横山くんの席。

敢えてそっちを見ないようにしていても、耳に聞こえてくる会話に、意識の大半が持っていかれてしまう。

中国出張についての話題で盛り上がっている中、男性社員のひとりが「お土産は?」と笑いながら催促していた。

「もち、買ってきてるよ〜。今回はなんと、現地で激マズと有名な揚げ饅頭。露店で買ったんだけど、中になにが入ってるのか、お店の人も知らないって」

「げ、それ危険じゃない?
俺、食う勇気ないんだけど……」

「うっそー。空港で売ってた普通のパンダチョコだよ。はい皆んな、手を出してー」

聞き耳立ててお土産の話を聞いてしまった後は、目線が自然と足もとのショルダーバッグに移動する。

中に、前回のインド出張のお土産にもらった、コンパクトミラーが入っているからだ。

私にだけ特別に買ってくれた理由を、あの時は不思議に思い分からなかったが、今は理解している。

私と仲良くしたいと、彼は言った。

私より彼に詳しい桃ちゃんは『遼介はただ、取っ掛かりがほしいだけで』と、大会議室内で言っていた。

コンパクトミラーは私と会話をするキッカケになればと思い、買ってきてくれたのだろう。

それならば、今回は……。

決してお土産を期待している訳ではないが、ソワソワして、落ち着かない気持ちが増してしまった。

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