モテ系同期と偽装恋愛!?
皆んなが須田係長を出産に立ち会わせてあげたいと見つめる中、マウスを操る島本課長の手がピタリと止まった。
「お、ひとりいるな」と呟いたあと、課長はおもむろに立ち上がってフロアを見回し、私の後方にいる誰かに呼びかけた。
「おーい、遼介!」
え……まさか……。
ドキンと大きく鼓動が跳ねて、勢いよく振り向くと、壁際のコピー機の前に立つ横山くんの姿が目に飛び込んできた。
コピー機の蓋を右手で持ち上げ、左手になにかの用紙を持っている彼は、作業の手を止めて遠くから返事をしている。
「中国から帰ったばかりで悪いが、明日、長野に行ってくれ。ダブル横山で」
「俺……ですか?」
思わず横山くんが聞き返してしまったのも無理はない。
私の仕事は洗剤やシャンプーなどの香料や柔軟剤成分を、国内化学メーカーに卸売することで、横山くんは海外から原料を買い付ける仕事がメイン。
彼は長野工場と直接関わっていないのに、どうして……。
横山くんも多分、私と同じ疑問を感じている。
そんな彼の心の声が聞こえたのか、島本課長が説明を足した。
「仕入れ担当の遼介が、直接工場の要望を聞く機会があってもいいだろ。向こうだって海外の仕入先に興味があるだろうし、話を膨らませて来い。この出張が、葉王の新製品に繋がったらいいよな〜」
「分かりました……」
横山くんが戸惑いがちに了承したあと、視線が私に流され、目が合ってしまった。
広いフロアの真ん中辺りに立つ私と、壁際のコピー機の前に立つ彼。
7、8メートルの距離を置いて真顔で見つめ合ってしまい、ハッとして先に目を逸らしたのは私だった。
心臓が早鐘を打ち鳴らし、心が大きく乱される。
どうしよう……よりによって横山くんと一緒に泊まりの出張なんて……。