アクアリウムで魅せて
「いらっしゃいませ、ようこそブルーローズへ」


マスターが挨拶と共にバラを置いてくれる。


……この演出は毎回だったのかと関心してしまう。



あの物腰柔らかい微笑みに何人の女性客が虜になり、ハマっていったのやら。
彼をうっとり眺めている女性客を横目に見つつ、彼とメニューを眺める。




お洒落なカクテルの名前に目移りしながら。
明日が祝日だという安心感もあり、時間を忘れて色々なカクテルを楽しんだ。




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段々身体も温かくなってきた頃。
店のBGMも幾分柔らかく心地がいい。



……テーブルに投げ出された彼の手に、自分の指を絡めたい衝動。





(あ、お酒が回ってきたのかもしれない)





……いつもとは違う違和感を感じた。






「そろそろいこっか」




彼がそう言って席を立つので、続けとばかりに立ち上がった私。
その瞬間、ぐわんと一瞬空間が歪み、ふらつく私を、すかさず彼が支えてくれる。




「ありがとうございます。またのご来店をお待ちしております」






---見送ってくれた影に、見覚えのある人影が映った気がした。










「珍しい。香織がお酒回ってる」


「ちょっと、笑わないでよ。
……可愛い名前に騙されたのよ」


「カクテルのな」


「そう。騙されちゃった……」




なんだろう。
酔うと時々切ない気持ちに襲われる。
この現象に名前をつけるとするならば……なんて名付けたらいい?









「……休憩してく?」



「うん。そうする」







お酒が入るとタガが外れる。
いつもだったら自分から、恥ずかしくて腕なんか絡めないから。



……自分のこういうとこ、すごく嫌い。



明るいネオンの中を通り過ぎる。
目の奥でチカチカと刺す、主張してくるその色が凄く苦手だ。




適当に入った部屋。
倒れこんだベッドに体が沈む。


熱くなった熱を解放するよりも先に、訪れた睡魔。







---私の記憶はここで途切れた。



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