太陽と月の後継者

ループしたクロエは学園の理事長室に来ていた。

『イズミ、久しぶり』

「クロエ様。御久しぶりで御座います。
今日はどういったご用件で…?」

『用がないと来てはいけないの?』

「い、いえ。滅相も御座いません!」

必死に否定しようとするイズミをみて、クスリと笑みを零す。

『フフッ…冗談よ。そんなに慌てるとは思ってなかったわ。』

「クロエ様…。このような事はお控えください。心臓がいくらあっても持ちません。」

『ごめんなさい。

時間も限られていることだし、本題に入るわね。』

雰囲気が一瞬で変わったクロエを前に、
イズミは背筋を伸ばす。

『今日、ある夢を見たの。』

「夢…ですか?」

『私の母が、頬に十字架が彫られた奇妙な男に殺された夢よ。』

イズミは、有無を言わせないほどの威圧的な空気に息を呑んだ。

『イズミ 貴方“知っている”のでしょう?』

「“知っている”とは…?」

イズミのこめかみに、気持ちが悪い汗が浮かぶ。

『シラをきるつもり?』

クロエの凍てつくような瞳にイズミは蛇に睨まれたうさぎのような気持ちになる。

沈黙の後とうとうイズミは跪き、頭を下げた。

「申し訳ございません。これだけは、どうしても答えることが出来ないのです。」

『…いいよもう。でも、二度目はないからね。』

「ありがとうございます。」

イズミはまだ立てないままでいた。

『じゃあ、私からの“お願い”聞いてくれるよね?』

「え…?」

いきなりの声色の変化にイズミはつい、間の抜けた声を出してしまう。

『私、今度の魔法大会で優勝して上級魔法使いになろうと思うの。』

「…」

『あ、勘違いしないでね!ちゃんと自分の力で勝ち取りたいの。 だから、杖を探しに行きたい。街に行ってもいい?』

「杖…ですか。」

“杖”

様々なものに変形でき、戦闘に多く用いられる。

種類も多種多様で、ハサミや、ムチ、ほうきなどがある。主に家の職業柄に関係しているものが多い。

猫や犬などに変形させ、飼う魔法使いもたくさんいる。

「わかりました。でも、一つ条件があります。」

『条件って?』

「何かあった時のために、誰か付き添いの者と行ってもらいたいのです。」

『付き添い…か』

(レイかーヨウテスか、リオかルカ…)

「女性はダメですよ。
いざとなった時困りますから。」

女性への偏見じゃないかとクロエは思う。

魔法使いらしからぬ発言に少々眉間に皺を寄せたが、渋々了承した。

『わかった。』

そう言うと、
ループを使って理事長室から姿を消す彼女

イズミは深くため息をついて大きな椅子に腰掛けた。
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