Love Cocktail

Petit Prelude

*****



「うん。それもいいな。それも貰おうか」

私を見ながら真剣に頷くオーナーを、試着室から睨みつける。

「もらおうか。じゃ、ありません! 私、生活費の大半を洋服だけに注ぎ込む訳にいきませんから!」

思いつく限り低い声で囁いた。

すると、彼はにこやかに首を傾げてくる。

「俺はそんなに払いの悪いオーナーじゃないぞ? 各店巡回する君には、けっこう時給つけてるが」

確かに。普通のバーテンダーにすれば、かなりの額を頂いてますが。

だからって、某有名衣料品屋でもない、ちゃんと店名ロゴまで入っちゃうような店で何着も買えません!

すでにこれで八着なんですよ!

でも無言で睨み合ってたら、あっさりとオーナーが折れた。

「ま、いいや。じゃあカードで」

そう言って、とてもニコニコ顔の店員さんに自分のカードを渡してしまう。

「待ってください! なんでオーナーに払ってもらわなきゃならないんですか!」

慌てると立ち止まる店員さん。オーナーはその店員さんを軽く片手で追い払った。

「いいか、吉岡」

ずぃっと詰め寄られて、試着室の鏡に張り付くまで下がる。

「俺は今、ヘンリー・ヒギンズ教授の気分なんだ。少しくらいのプレゼントでビクつくんじゃない」

ヘンリー・ヒギンズ教授って……。

その名前から察するところはひとつなんだけど、凄い古い映画ですね……。

「じゃ、私は花売り娘のイライザですか」

「俺は後からできたミュージカルより、もっと古い方が好きだけど。でも、どっちもかなり古い映画なのによく知ってるな?」

いい子いい子と頭を撫でられ、ふてくされる。これじゃあ子供扱いじゃないか。

しかも、この人金銭感覚がおかしい。
間違いなくおかしい。

さっきはアクセサリー屋さんで八万もするペンダント買おうとするし。
靴屋さんでは、五万もするサンダル勧めてくるし……。

結局、言い争って、安くて可愛い系のネックレスと、ミュールとブーツになったけど……。

「……それはそのまま着て行こうか」

目を丸くして、どこか考え深げなオーナーを見た。

今着てるのは、半袖の赤いニットワンピ。インナーに、白のふわふわフリルのキャミワンピが付いていて、裾から見えて可愛らしい。

「と言う訳で、没収」
< 12 / 112 >

この作品をシェア

pagetop