幻が視る固定未来
本当に分かっているか疑いそうなくらい返事を返し、助歌の後を追い木下は逆戻りしようとしていた。けどオレは一度だけ声をかけ止めた。

「木下。どこに持ってくるか分かっているのか」
「もちろん」
「一応聞いておくがどこに持ってくる?」
「灼蜘の部屋」

あぁやっぱ平然と答える訳だな。

なんとなく分かっていた分オレの反応は薄かったのだがある一人はそうではないようだ。
足を止め、振り返った助歌の表情は木下のように無表情だが、これこそ本当に表情を出さないようにしている人の顔だろうな。

「木下、私の聞き違いではないだろうか。今、幻視様のことをなんとお呼びした?」
「灼蜘」

怒りを堪えて震える言葉と違い、木下は滑らかにオレの名前を言っている。

「新人であり、しかも召使いの分際でありながらどうしてご主人である幻視様に向かってそんな風に呼べるのです! ちゃんと敬意をはらって様をつけなさい。年齢が近いと言っても友達とは違うのですよ! 分かってるのですか」
「分かっている」

いやいや木下。確かに簡潔で正確な返答ではあるが、ここではもっと言葉にして言わないと助歌は理解しないぞ? それに助歌は堪忍袋の緒がブチ切れてるから簡単には静まらないだろう。
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