天狗の娘
「そう」
隼は淡々と語りだした。
「天狗っていうのは、要するに氏神なんだ。
天照様に決められた場所を、ひたすらに守り続ける。
……慶一郎様が、天狗だという事は知ってるだろ?」
紗希は頷いた。
「天狗にも寿命があるから――もちろんそれは人間とは比べ物にならないほど長いけど――代替えをするんだ。
子供だったり、あるいは弟子だったりに、自分の力や術を伝えて、氏神という立場を譲る。
……だけど、力を渡すのは一人の氏神につき一人だけ。
二人以上に分けると、力が分散して、小神達をまとめ上げられなくなる。
それに、権力争いで、天狗同士が争いあう事になるかもしれない。
実際、常世にはそういう歴史がある。
何百年にもわたる大戦争だ。
人間の住む現世にも、莫大な被害が出た。
……そしていつしか、権力争いを起こさないための掟が出来た。
跡取りを、一人にするという決まりだ。
『力を二人以上に与えた天狗は大罪人であり、黄泉の国へ島流しの刑を科す。
その力を受け継いだ者も、同等の罪を科せられる事とする』」
ぞわぞわと葉擦れの音が沸き立った。