手に入れる女
それからすぐに返信のメールを打った。
タイトル:Re:チーズケーキはいかが
本文:お気遣いありがとう。
正直なところ、甘いものが食べたい!(疲れてます)
差し入れいただいてもいいですか。
5分ぐらいしたら、行けそうですが、どうでしょう?
こんな返事をすんなりとしてしまったのは、あんな風に軽くからかった手前、さらりと受け取るのがスジだろう、と思ったからだった。
……違う、昼間の優香が眩しくてもう一度彼女の顔を見たいという誘惑に負けてしまっただけだ。
5分後。
佐藤がコーヒーショップに駆けつけた時にはすでにドアの外で優香が待っていた。
佐藤が走って来るのを認めると、手を振って合図をする。
優香はケーキ屋の箱を佐藤に差し出した。
「手作りじゃないのが残念なんですけど、ここのは美味しいですよー。食べて欲しくてさっき買って来ちゃいました」
優香はうふふと笑う。
「ありがとう。これで元気が出るかな。それじゃあ……」
お礼を言って、佐藤は引き返そうとした。勝手に抜けて来たので職場のことが気になってもいる。
向きを変えてすっと歩き出そうとした瞬間。
ぎゅっと腕を掴まれて引き戻された。
優香が佐藤の二の腕をつかんで彼女の方に引き寄せたのである。
「小泉さ……?」
優香はいいかけた佐藤の唇を、自分の唇で塞いだ。
一瞬のことだった。
佐藤には時が止まったかのように感じられた。優香は佐藤に押し付けた唇をゆっくりと吸い寄せる。
遠くの方でかすかにちゅっという音が聞こえたような気がした。
自分の心臓がどくんどくんと早鐘をうつ音が聞こえる。体中の血が逆流しているようにゾクゾクとした。
頭がクラクラして何も考えることが出来ない。体が芯からかあっと熱くなりうずいてくる。
「……」
ーーこのまま時が止まってくれればいいのに……
優香の情熱を十二分に受けながら、それ以上どうすることもできない自分が少しもどかしい。
ふいに優香は顔を離した。
目がくりくりとしている。いたずらっぽい笑みを浮かべていた。
佐藤の唇を十分に濡らして満足したようだった。
「今夜も頑張って!」
それだけ言うと、優香はくるりと振り向いて走り去って行った。
ついに賽は投げられたのだ。