手に入れる女
「もう、その余裕が悔しい」
優香のため息を聞いて、佐藤も負けじと肩をすくめて、大げさなため息をつきながら、わざとらしくにやけた。
なるべく深刻な雰囲気にならないようにしたかった。
「こっちだって、君のその悔しい顔があまりにもキュートでついからかってしまいたくなる」
それは全く芝居がかった仕草で、優香が気分を害したのは明らかだった。
「何、それ。何気にばかにしてる? 私は本気で好きな……」
とうとう優香は感極まって涙をおとした。佐藤は、佐藤の胸を叩こうとしている腕を取り押さえながら、彼女の言葉を遮った。
「あ、今度は泣いた。君はふくれたり泣いたり、相変わらずいつも忙しいね」
涼しい顔をされて、一層きまりが悪くなった優香は悔しそうな顔をした。負けん気の強さはこんなところにも見て取れる。
「そこまで意地の悪いこと言わなくても」
佐藤は楽しそうに笑いながら優香の腕をしっかり押さえたまま、彼女を見つめる。場違いなほど陽気な声で言った。
「だって、どんなに意地の悪いことを言っても、君は全然めげないじゃない。おきあがりこぼしよりも強いね」
その後ふっと真顔に戻ってため息をもらした。
「どういうことになるかわかってるの?」
それは心なしか哀しそうな声に聞こえた。静かに優香の顔を覗き込んだ後、背中にゆっくりと手を回して、少し乾いた唇をそっと優香の唇にのせた。
そして優香の反応を確かめながら、優香の唇をゆっくりと優しく吸い寄せる。
なめらかで穏やかなキスだった。佐藤は、そのままゆっくりと、まるで優香の意思を確認するかのように、優香を抱きしめた。
それから、優香の首筋に唇を移した。優雅で穏やかないつもの佐藤そのものであった。