手に入れる女
普段通り、いつも通りだと聞かされて、優香は’安心すると同時にがっかりもした。
ーーあの夜は……あの日の出来事はなかったことにされているのだろうか?
佐藤は、なかったことにしたいのだろうか?
何の連絡もせず、沈黙を守る佐藤に優香はじりじりとした焦燥感ばかりが募っていく。
「……それって浮気じゃないの?」
優香はしらっとした顔で圭太に聞いた。
一晩外泊して、何の説明もないなんて、相当やましいことをしていると考えるのが普通ではないか。
圭太もしらっとした顔で答える。
「まあね、何があったか言わないし、普通は浮気を疑うよな。
オフクロももしかしたらそう思ってるのかもしんないけど、取りあえず、表面上は穏やからしい、聡子によれば」
「……」
「それより、優香さんは何でウチに来なかったの?」
急に矛先を自分に向けられて、優香はたじろいだ。
「うん、急な用事が入っちゃって」
「だから、急な用事って何? もしかして浮気〜?」
笑いながら冗談を飛ばす圭太に優香の心がチクリと痛んだ。
「まさか」
そう返すのが精一杯でうまい言い訳なんか思いつかなかった。
もう少し追求されたら、話に綻びが出てしまいそうだったから自然と無口になってしまう。
圭太は、そんな優香をじいっと見つめる。圭太が何を言い出すのだろう、と、優香は気が気じゃない。
圭太はふっと顔を緩めた。
「ま、いいや。気が向いたら話してよ。それより、何か食べるもの、注文しない?」
佐藤一家は、優しい人たちばかりだ、と優香は思い、そして、そう思うと良心が疼いた。