手に入れる女

圭太は万全の準備をしたつもりだ。
何しろ、初めて婚約者を家族に紹介するのだ。出来る事ならば、双方がお互いを気に入って欲しかった。

父親は圭太のすることに口出しすることはめったにないので大丈夫であろうと思っていたが、問題は母親と妹だ。

以前彼女を家族に紹介した時は、天然なところのある母親がうっかりその前の彼女と勘違いして話をしたせいで、結局彼女と破局するはめになった。

妹の聡子も、結構キツいことを言うので、優香が気を悪くしないか心配だった。

「圭太、ガチガチじゃない」

二人でレストランに向いながら、優香は笑った。

圭太はホントにいいヤツだ。顔合わせがうまくいくように、あれこれと気を配っているのが手に取るようにわかる。

それなのに自分は……
優香は自分の身勝手さに心が疼く。

圭太を傷つけ、美智子を傷つけるであろう。
それでも、佐藤と会うのを楽しみにして、声を聞く事を心待ちにしている自分がいた。

ーーさすがの佐藤さんもびっくりするかしらね、私の顔を見たら。

優香には、佐藤に挑むような意地悪な気持ちもあった。
あんな風に、一方的に、突然に、関係を終わらせた佐藤への意趣返し。
思っても見ない状況での再開に佐藤はどう反応するだろうか。

< 168 / 216 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop