手に入れる女

「相変わらずねぇー、のりさん。あたしね、あなたがうちの両親に結婚申し込みに行った時の事、思い出しちゃった。
少しは緊張するのかなー、と思ってたけど、のりさん、あの時も冷静だったよね」

「そんなことないよ、緊張してたよ。こんな綺麗な人と結婚できるのかな、お父さんは許してくれるのかなって思ってたし。
美智子はホント綺麗なお嬢さんだったもんなぁー、あの時」

「まー、今はそうじゃないって言いたいの?」

からかうように言う。

「こりゃ一本取られましたね。今でも綺麗ですよ、美智子さん」
「愛してる、のりさん」

無邪気な美智子は、優香と圭太のいちゃいちゃぶりにあてられたに違いない。
目をうるませながら甘ったるい声で佐藤に囁いた。
佐藤は反射的に軽く美智子を抱き寄せておでこに軽くキスをした。長年の習慣か、考えるより先に体は動いた。

もたれかかる美智子の頭を抱きかかえながら、佐藤はため息を一つつく。
今までだったら、いくつになっても素直に甘える美智子を可愛いと思ったものだった。

が、しかし今は……

「わかりきったことじゃないですか、美智子さん。僕が君を深く愛してるっていうのは」
こう言わされた時の優香の顔が蘇る。
勝ち誇ったような彼女の顔。
「言わされた」ってわかっているのよ、と言わんばかりの表情で妖艶に笑った。


嘘をついて生きるのも、正直に生きるのもしんどいことだった。

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