手に入れる女
それを聞いても美智子はやはり前を向いたまま、身動き一つしなかった。
やがて、佐藤にむかって静かに微笑んだ。
「のりさんいなくなったら寂しくなっちゃうなー。圭太も家を出ちゃったし、聡子ももうすぐいなくなっちゃうし。」
「……うん。」
佐藤は美智子に相づちをうちながら、彼女の顔を直視することができない。
「私、のりさんがいたらできないことをするからねー、犬も飼っちゃう。瑛太のDVDだっておおっぴらに見れるし……、」
話しているうちに美智子は声をあげて泣き出した。
「のりさん、行かないで、行かないでよ。犬なんていらないし、DVDだって見たくもない。」
美智子は、とんとんと佐藤の胸をたたいた。
一旦泣き出したら、堰を切ったように激しく慟哭し続けた。
佐藤は、美智子の持って行き場のない気持ちに応えることが出来ない事に心が痛んだ……。
それでも佐藤は、そっと美智子の手首をつかんで彼女の顔をまっすぐ見ながら懇願した。
「出て行きたいんだ。お願いします。」
美智子は、その後もしばらくの間ヒックヒックと肩を振るわせていたが、次第に息を落ち着けるとようやく喋れるようになったらしかった。
「うん、私にも分かってるの、のりさんが出て行くしかないってこと。分かってるの。
ただ、苦しくてなかなか受け入れられないだけ…。
だって、私たち、25年も一緒に暮らして来たのよ? だから、ちょっと駄々をこねたのよ。」
後は、言葉もなく泣くだけだった。