その男、猛獣につき


「あっ、あの、有田 舞花と申します。よろしくお願いいたします」

私は勢いよく、頭が地面につく程に深くお辞儀した。

 

「あぁ。よろしく」



私の勢いとは、まるで正反対に先生は一言感情を込めずに呟くように言うと、私に目でついてくるように合図を送り、すたすたと病院の中へ入って行った。

 

 

★☆★

 

「とりあえず、1階は外来や事務や厨房。3階と4階が20床ずつの入院フロア。そしてこの2階には、このリハビリ室とカルテ庫、医局と会議室しかない。ネット環境も整ってるし、夜はほとんど誰もいない。まぁ、そういうことで。」

 

「えっ?」

 

到着早々 、先生に連れてこられた場所は、2階のリハビリ室。そのリハビリ室の中にあるADL室というスペース。
いわゆる患者さんが退院に向けたリハビリのために作られた家を模倣した10畳程度のスペース。ふすまで仕切られたキッチン台やちゃぶ台等が簡単におかれている。

数年前に改築工事が終わったばかりの永島病院は、リハビリ室もADL室もまだピカピカしている。

 

 
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