その男、猛獣につき
集合時間の15時、私は指定された病院の正面玄関で待っていた。
こんな蒸し暑い日曜日の昼間に、1着しか持っていないリクルートスーツに、大きな真っ赤なスーツケースを持って、吹き出す汗をハンカチで拭いている私を、見舞い客と思われる人達からじろじろと見られるのがなんだかとても恥ずかしい。
「有田さん?」
数分たった頃、後ろから電話越しに聞いた低くて色気のある声で話しかけられた。
「はい‼」
思わず背筋が伸び、緊張感が全身を支配する。
「興梠です。」
私が振り返った先には、栗色の髪にふわりとした緩いパーマをかけ、涼しげで整った顔立ちの男性。
これが、噂の《冷徹の興梠先生》
なんか、めっちゃイケメンじゃん。
不覚にもそう思った私は、興梠先生の頭から爪先までを眺める。
白いシャツに細めの黒のチノパンといったシンプルな格好だけど、ちらりと見える腕時計や靴からセンスの良さが垣間見える。
「何?」
私の視線に気づいたのか、先生は眉をひそめて威嚇するかの様に冷たく言い放つ。
もちろん、冷たく睨まれるという必殺技付きで。
私が、秒殺でその視線によって氷ついて固まってしまったのは言うまでもない。