その男、猛獣につき
「私、病院の寮を希望したのですが…」
そう、通常の実習は学校側が病院の寮の利用や近隣のウィークリーマンションを手配してくれる。
永島病院は田舎のせいもあって近くにウィークリーマンションなんてものはないらしく、私も例にならって病院の寮を希望した。
はずだったんだけど……。
「あぁ…」
先生は、少しだけ視線を彷徨わせて、リハビリ室のカーテンと窓を開けた。
「寮、あることはある」
そう言って、先生は窓の外を指をさした。
私は窓に近寄って、その指の方向を見る。
その先には、いかにも昭和に建てられた2階建の木造アパートがあった。今私がいる病院が新しいせいもあって、それとはあまりにも対照的で、いくつかの部屋の網戸は外れているのがわかる。
「誰か住んでいるんですか?」
「いや、誰も。」
恐る恐る尋ねた私に、先生はぶっきらぼうに即答で答える。
「今までの実習生は?」
「ここに住んだ。 …あとはこの辺りが地元の学生だった」
「こ、ここですか?」
しげちゃん先生、聞いてないよ、こんなこと。
わたしはしげちゃん先生を恨みながら、涙が溢れそうになるのを必死でこらえた。