その男、猛獣につき
ふと、私の中に小さな疑問が沸き上がる。
≪親友の女を口説こうとは思わない》
確かに車内で、そう言った敦也さん。
今日一日、私は敦也さんに口説かれることなんてなかった。
それに敦也さんは私の先生に対する気持ちまで知っている。
先生が猛ダッシュで、私と敦也さんの所に来た時だって、その状況を楽しんでいるようだった。
今、私と先生が二人きりの状況。
本当はこの状況を敦也さんが仕組んだ気がして、他ならない。
「先生、あの…」
辺りはもう真っ暗で、対向車の光が先生の横顔を照らす。
「何だ?」
先生は冷たく、言い放つ。
その声は低くて、色気があるのに、怒りを含んでいるようで恐怖を感じる。