その男、猛獣につき

 行きは自転車でのハプニングもあって、かなり時間が必要だった道のりも、帰りは車であっという間に病院に到着してしまった。

 

まだまだ降り続く雨を避けるように、先生は駐車場から一本しかない傘に私を入れてくれて、病院の裏玄関まで送ってくれる。

 

これっていわゆる、あいあい傘じゃん。

 

意識すればするほど、少しだけ傘からはみ出た左肩が雨に濡れる冷たさよりも、先生に触れる右肩の方に意識が集中してしまう。

裏玄関まで行き着いても火照ったように熱を帯びた頬が熱い。

 

きっと赤みを帯びているであろう顔を隠したくて、

「これで今夜もレポート頑張れそうです」

コンビニ袋を見せて、先生に向かって笑顔をつくる。



そんな私につられるようにして、先生も表情を崩して笑う。

 

 

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