その男、猛獣につき
「あぁ…、連絡なんて来ないよね」


秋の夜長なんて言葉は一体誰が作ったんだろう。
もう10月に入り数日が経った木曜日の夜、発表用のスライド作りが今日はなんだか思ったように進まず、カフェオレを飲みながら一息つく。

月曜日からもう4日間、先生とは病院で会って、指導を受ける以外は喋る機会すらないという状態が続いている。

夜に電話やメールで話がしたいなんて思っているけれど、一向に鳴る気配もない。
そのことを考えると、スライドの資料作りも捗らない日が続いている。

先生と約束さえしていなくて、1人で勝手に電話を待っているせいで時間が長く感じてしまって、それはきっと秋の夜長のせいだなんて都合よく解釈したりしてみる。



もうこんな夜を3晩も越えて、4回目の夜を迎えている。
あの出来事はもしかして先生にとって、一夜の秘め事で終わってしまったのではないかと不安になる。

心が通じ合えたなんて思っていたのに…。

もう胸元の印だって色褪せ始めていることも、私の不安を助長させていく。

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