その男、猛獣につき
結局、あの後リハビリ室に戻ってきた先生は、黙々と治療を行っていて直接謝るタイミングが分からず、私は一日中自分を責めながら過ごしてしまった。


先生と、業務の話すらまともに出来なかった。


1人で夜ご飯を食べながら、大きなため息をつく。
美味しいはずのご飯さえ、なんだか味気ない。

「気合い入れて資料、作らなきゃ」

そうは言ってみたものの、なかなかやる気なんて沸いてこない。

さっきからパソコンの画面は、カーソルが同じところを行ったり来たりしているだけ。


そんな時、急にスマートフォンが震える。

「もしもし、舞花?」
急だったから、相手の確認すらせずに出ると、その低くて色気のある声に、その相手が私の待ち望んでいた相手だということがすぐに分かる。

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