その男、猛獣につき
あの日から1週間。
私はしげちゃん先生に教務室に呼び出され、絶叫していた。
そう、なぜなら私が指名されたからだ。
「有田 舞花、永島病院に実習先を変更する」
安心しきっていた私に告げられたのは、まさに青天の霹靂だった。
私が教務室で、あまりにも絶叫したせいだろう。
私はしげちゃん先生に面談室に移動させられ、向かい合わせに座っていた。
「男子が行く実習先のはずじゃ……」
「まぁ、それは……」
しげちゃん先生は頭をポリポリ掻きながら何だか口ごもったけれど、今の私はそんな事に気づけずにいた。
「有田、大丈夫。有田のバイザーは……相手は、人間だから。」
「しかも、ここの卒業生だ。」
えぇ、えぇ、知ってますよ。
永島病院の実習の指導者。
つまり私のバイザーになる人。
これまでの先輩やクラスの子達が噂してたもん。
《冷徹の興梠(こうろぎ)先生》
必殺技は蛇より恐い睨みだって。
興梠先生に睨まれると、学生は氷の様に固まって動けなくなるって。
「その顔見ると、興梠の噂は聞いてるみたいだな。」
そんなしげちゃん先生の言葉に大きなため息しか出てこない。
「先方には、今回の事情はしっかり伝えてあるから。巡回指導にも自分が行くことにしたから。」
「……しげちゃーん。」
私はそんなしげちゃん先生の言葉を聞いて、目の前の先生に泣きついたのだった。