その男、猛獣につき
田舎道をノロノロと走るバスがようやく目的地のバス停へと到着する。
お盆休みが終わった蒸し暑い日曜の昼間に私は、そのバスから参考書や着替えがぎゅうぎゅうに入った真っ赤なスーツケースを抱えて、降りた。
いつも住んでいる街よりずっと空が近くにある。
辺り一面を緑色一色の山々に囲まれた山間部。
少しだけ高台にあるバス停からは、段々になった田んぼに青々とした稲が風に揺れているのが見下ろせる。
これから始まる実習への緊張と長時間の移動で疲れてガチガチの体を解きほぐすかの様に透き通った空気が私の体に入ってきた。
「うーん。気持ちいい。」
私は大きく深呼吸した。