シークレットな関係

「桃花」


呼ばれても彼の顔を見ることができなくて、俯いたまま返事をすると、後ろからすっぽりと抱きすくめられた。

そして、聞こえてきた言葉は予想外のものだった。


「連絡もらったときは、心臓が止まるかと思ったぞ。本当に、無事でよかった・・・怖かっただろ」

「うん・・・すごく・・・すごく、怖かった」


口に布が詰められて息苦しい中、心の中で必死に和哉の名前を呼んでいた。

もしもマネージャーが来るのがあと一歩遅れていたら、そう思うと、ぞっとする。


ふと、彼から雨の匂いが漂ってきて、スーツが雨に濡れていることに気が付いた。

振り向いて見上げると、目が赤くなっていて、髪も濡れており、少し汗をかいている。


もしかして、傘も差さずに、駅から走ってきてくれたの?

いつだって冷静で、さっきもすごく落ち着いているように見えたのに。

今は、私以上に辛そうな瞳をしている。

そういえば、ビジネスバッグも持っていない。

もしかして、やりかけの仕事をそのままにして来てくれたの?


こんな彼を見るのは、今が初めてで、さっきまで感じていた恐怖心とか後悔の気持ちとかが薄れていき、ただただ彼が愛しくなる。


「和哉、心配かけてごめんなさい」

「桃花・・・犯人に、何をされた?」

「え?」

「俺は“襲われて、犯人は警察に捕まった”としか聞いていない。・・・言うのが辛ければ、無理は言わん」


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