シークレットな関係
緊張しつつ待つ私に店員が注文を聞きに来たので、連れが来てからでいいですと断って待つ。
七時を少し過ぎた頃ようやく高橋が来て、向かい側に座るのとほぼ同時に紅茶が運ばれてきた。
まだ注文してないのにどうして?と驚く私に、ここに来る道すがらに注文しておいたという。
「時間がもったいないからな。紅茶を飲んだらすぐに出るぞ」
カフェの素敵な雰囲気も紅茶の味もゆっくり味わうことなく急かされるように外に出て、駐車場に停められていたタクシーに乗り込んだ。
運転手に行き先を告げることもなく、車は滑るように走り出す。
何もかも先に準備しているみたい。
「今からどこに行くの?」
「腹ごしらえ」
腹ごしらえ!?って、もっと他に言い方があるでしょう?と思うけれど口にできない。
やっぱりそうだ。
高橋と契約したのはラブシーンの練習なのだから、ソレをするのが当然だ。
彼が演技をするなら、私もそうしなければ。
私は女優、私は芸能人、私はヒロイン、とひたすら心の中で繰り返ししつつ窓の外を流れていく景色を見ていると、手の甲にぬくもりを感じた。
振り向くと高橋が体が触れそうなくらい傍に来ていて、大きな手が私の手をすっぽりと包みこんでいた。
「櫻井、緊張してるのか」
握られた手が高橋の口元に近づいていく。
薬指にやわらかい唇が触れ、びっくりして思わず手を引き抜くと、彼はフッと笑った。