シークレットな関係

「使うのはこの出荷指示ソフト。顧客コードごとに品番と受注数を照合するだけ。エラーが出ていたら直す。超簡単な仕事だろ。じゃ、頼むな」


てきぱきと照合方法を説明され、デスクにドサッと置かれた受注書の束は分厚くて5センチ以上はある。

チラチラと捲ってみれば、一枚に一件ではなく数件のオーダーが書かれていた。


「他にもやることは山ほどあるんだから、それくらいサッと済ませろよ」

「・・・わかりました」


高橋は隣のデスクに椅子を戻して座り、パソコンのキーボードを叩き始めた。

マウスをいじる長い指、のどぼとけと精悍なあごのラインは大人の男を感じさせるけれど、パソコン画面を見つめる真剣な目は子供の頃の面影を残したままだ。


「櫻井、ぼーっとするな。早くしねえと時間が無くなるぞ」

「はい、速やかにやります」


受注書と見比べながらひたすらマウスを操作する。


高橋和哉は幼小中高とずっと一緒だった、いわゆる幼馴染。

小さい頃から負けず嫌いの性格で、勉強に運動、おまけに恋愛も、何かにつけて私に勝負を挑んできた。

勝負内容はいつも勝手に決められていて、毎回高橋が勝って、得意気にニヤリと笑うイヤミな男だった。

悔しいことに全然敵わなくて、高橋は勉強はいつも学年上位。部活動では主将を務めていたし、恋人ができたのも彼が先だ。

大学が別になってようやく離れることができ、二度と会うことはないと思っていたのに、まさかここで再会するなんて。

しかも直接関わる部署だとは、ついてないことこの上ない。

三ヶ月だけの我慢と、腹をくくるしかないか。

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