どうすればいいのかわかりません!
振り返ると見えたのは、黒い傘を差しながら立っている無表情の工藤さんと、レインコートを着て、お腹を抱えてしゃがんでいる戸倉さんの姿。

「ど、どうしてここに……!」

「帰り道だからに決まっているとは思いませんか」

そ、そりゃあ、駅に向かうには最短の道かもしれないけど。

「く、車で帰るとかあるでしょ」

「飲酒運転は法律的に問題がありますし。そんなことでメディアを騒がせるつもりはありません」

ああ、そういえば街コンで、お酒も出されていたかもしれない。

「社長なら、お抱えの運転手とかいるんじゃないですか」

「社用でもないプライベートで、そんなものを使う意味がわかりません」

……ああ言えばこう言うって聞いたことあるけど、こんな感じな事を言うんじゃないだろうか。

とりあえず。

「す、好きでもない方と、つきあうとかありえません!」

「では、好きになってください」

……やっぱり倒れてもいいですかー?

なんだかいろんなことがあってクラクラしていたら、戸倉さんが立ち直って工藤さんを見上げる。

「慎一は、梨理ちゃんのどこに惹かれたわけ?」

……ああ、それは聞いてみたいかも。
あんな短い数時間で、どこをどうやったら、つきあうとかに発展したんだか。

是非、伺いたい!

「嬉しそうに食べる姿に」

無表情に見つめられて、じりっと一歩下がった。

「食べて幸せそうに微笑んで、まるで花がほころんだように、とでも形容するに値する姿でした。話していても楽しそうにしてくださいましたし、あの頬に触れたら柔らかそうで、きっと、この手で抱きしめたら気持ちが……」

「ああ、ストップストップ。それ以上言うと、ただの変態だから」

そう言って戸倉さんが止めたけど、もうすでに変態です。

思わず美保と手を取り合って、青ざめるくらいには。
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