たとえ声にならなくても、君への想いを叫ぶ。
 


「(あ、あの……最近、ハマってしまった小説があって。それで、夜も夢中になって読んでたら、つい時間を忘れてしまって……)」



我ながら、苦しい言い訳だと思う。


けれど、今はテスト期間でもないし、こうでも言わないと先輩が納得してくれるとは思えない。



「……へぇ。そんなに面白い本なんだ?それなら、俺が受験終わったら、その本のタイトル教えてもらおうかな。……でも、それがどんなに面白い小説でも、たまには早く寝ないとダメだよ?」



私の顔を覗き込みながら目を細め、試すような視線を寄越す先輩に、コクコクと何度も頷いた。


……本当は、先輩に全てを話してしまいたいと何度も思った。


眠れぬ夜を過ごすたび、何度心の中で先輩のことを想ったかわからない。


だけど今のこの時期、受験生である樹生先輩に心配をかけるわけにはいかない。


先輩を、余計なことで悩ませるわけにはいかないから。



「……あぁ、そういえば。今日は雨が降るみたいだよ」



私は口を噤んで、見えない敵とただただ無言で戦い続けるしかないのだ。


 
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