四百年の誓い
 「……!」


 悔しさのあまり、美月姫は手にした名刺をビリビリと引き裂きたい衝動に襲われた。


 その前にグシャッと、手のひらで握りつぶした。


 しわくちゃになる名刺。


 だけど破れなかった。


 捨てることもできなかった。


 屈辱的な思いを抱いたまま、美月姫は名刺を財布の中に入れた。


 そしてベンツの消えていった方角を見つめ続けた。


 完全に丸山乱雪一行が消えたのを悟った頃、緊張から解き放たれたためか、涙が流れ出した。


 与党幹事長で、実質的なこの国の最高権力者・丸山乱雪。


 そんな人物が、わざわざ美月姫の元へやって来た。


 優雅との関係に、釘を刺すため。


 そして……。


 今後のことを考えると、美月姫は気が重かった。


 今日明日にどうこうなるわけではないけれど、やがて訪れるであろう別れの時を改めて思い知らされた。


 振り向けば西日。


 辺りの古い家は、ベージュ色にほんのり染まる。


 優雅への想いを胸に抱きながら、美月姫は歩き始めた。
< 125 / 395 >

この作品をシェア

pagetop