Office Love
フロアの一角、今回のプロジェクト用に席が設けられ、そこに参加するメンバーが集められた。
市埼さんをリーダーに、サブに吉田君、綾瀬さん、そして私達二人。
吉田君は市埼さんの直属の部下で私たちの同期。綾瀬さんは三課でこれまた私達の同期。
みんな顔見知りだけど、仕事を一緒にするのは初めて。
緊張と少しの不安が私達を渦巻いてた。


*******



「なぁ、真子。順調か?」
「何がや?」
「言わねぇでもわかんだろ。」
「お前よりは順調ちゃうか?」
「どういう意味?」


真子のデスクから眺める新プロジェクトのブースに集まる面々。
ギン以外は真面目な面子が揃ってるみてぇだから心配はなさそうだが。
けど、面白くねぇ。


「お前の考えてることなんかお見通しや。そないに心配なら部長に掛け合うたらええやんけ。」
「お前は心配じゃねぇのかよ?」
「俺?心配してへんわ。そないに簡単に流されるような女ちゃうしな、彩葉は。」


そう俺も信用してる胡蝶の事を。信用してても募るこの不安はどっから来んだ?
真子と共に視線を新プロジェクトの方へと移せば、談笑してる胡蝶と七瀬。
二人ともいつもは掛けられてる眼鏡を外し、素顔が露わになってやがる。


「ま、おもしろくはないわな。けど、応援するんも彼氏の役目やで。」
「余裕だな、真子。」


七瀬が吉田と仲良く話してる姿がこっからでもよく見える。
ギンと吉田に挟まれて、肩と肩が今にも触れんじゃなぇかって距離で話してる。
なのによ。その余裕、どっからくんだよ?


「渡してん。合い鍵。」
「お前んちのか?」
「おぉ。しゃーから余裕かませてられんのんかもな。」


合い鍵か。思いもつかねぇ事だったけど、一緒の家に帰るってなら、少しは安心できんのかもな。


チラリと胡蝶がこっちを向いた。
照れた様な視線を送って来て、ニコリと笑って元の位置に戻る。
俺だけに向けられた視線と笑顔だって事に今まで抱えてた不安が一気に吹き飛んだ気がした。



***


修兵が言うことも一理あるけど、心配してても埒があかへん。
吉田も綾瀬も他人(ひと)の女に手出すほど見境ないヤツちゃうし、ギンも今はあの子にご執心や。
それに彩葉の左手にキラキラ光るブレスレット見てたら、俺だけの彩葉やって思えるんが不思議。
今度は指輪買うたりたいけど、まだ時期尚早か?
そないな事ないか。


「修兵、ちょっと覗きに行こうや。」


修兵の気持ち汲んで、新プロジェクトのブースに顔を出しに行く。




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